はじめに


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はじめに

こちらは、花男を題材とした、二次小説サイトです。

あくまでも、個人が趣味の範囲内で楽しむ為だけのブログであり、原作者様他、公式な媒体とは、全く関係がありません。

気に入らない作品は、『読まない』と、言う選択肢がある事を、どうか忘れないでください。

CPは、司つく、総つくをメインとしておりますが、他のCPも書くことはあります。

『◯つくだけしか受け付けない』とおっしゃる方は、どうか、我が家の存在をお忘れ下さい。

読まれた後の苦情、ネガティヴコメントは、一切受け付けません。

・・・なんか、こんな事を、一々言わないといけないのかと思うと、寂しくなりますね。

皆様、どうか、楽しく、花男二次の世界をお楽しみ下さい。

告知


花束を君に〜21の翼〜
異種CP21人の二次作家によるイベントを開催します♬


サイトオープン日     10月15日0時00分頃〜11月下旬頃
(それ以降はサイトはクローズし、各々のブログでの公開となります)

サイト公開日            10月15日6時00分〜10月28日(あとがき)まで 毎日8話ずつの公開となります。
コメントはオープンコメントのみ受け付け致します。
どうしても秘密でコメントを残したい場合は、各サイト様へ直接コメントをお願い致します。
異CPのイベントです。各作家さまの士気の低下に繋がりますので、誹謗中傷などのコメントはご遠慮ください。


Romance(リレー本編)、Pure Love(純愛)、Comedy(コメディ)、Fantasy(パラレル)、Battle(ドンパチ)、Darkness(ダークネス)と6つのカテゴリごとにリンクを貼っております。
お好きなお部屋にどうぞ♬

翼バナー(350×350px)

イベントブログバナー
リンク貼付の場合には、イベント管理人までお声掛け下さい。

Romance
ラブ(R)度★★☆☆☆/ロマンチック度★★★☆☆/コメディ度★★☆☆☆/ドンパチ度★★★★☆/シリアス度★★★☆☆
家庭料理レストランを営むつくしちゃん。飾らない魅力に惹かれて、御曹司たちが集まってくるお店。その中の幼なじみ4人組が本気で落とすべく、デートに誘うが、さて、つくしちゃんは誰の手に?
4つのCPごとにエンディングが多数用意されております。
是非お楽しみください。
10月15日〜 6時、12時、18時公開

Pure Love
ラブ(R)度★★☆☆☆/ロマンチック度★★★★★/コメディ度☆☆☆☆☆/ドンパチ度☆☆☆☆☆/シリアス度★★★☆☆
約束の4年を守って帰国した司。まだ学生だったつくしと婚約だけはしたものの、それから5年。二人の仲は続いていたが、つくしは結婚を言い出さなくなった司に不安を感じていた。そして、その不安に気づいたのは、司ではなくF3だった・・・。
※こちらのエンドは一つのみになります。希望のエンドでない方もいらっしゃると思いますが、笑って受け止めていただけると励みになります。
参加者:あお様、Gipskräuter様、Happyending様、koma様、lemmmon様、miumiu様、聖様
10月15日〜 9時公開

Comedy
ラブ(R)度★★★☆☆/ロマンチック度★★★☆☆/コメディ度★★★★★/ドンパチ度☆☆☆☆☆/シリアス度☆☆☆☆☆
F4とつくしは大学生。類が持ち出したのは、あみだくじ。つくしとのデートの順番を決めるため。そして、一番になったのは司。でも、ゴージャスなデートを目論む司の思惑は次々はずれてしまう。さて、二番手は?
参加者:河杜花様、lemmmon様、miumiu様、plumeria様、りおりお様、星香様、空色様、やこ様
10月16日〜 3時公開

Fantasy
ラブ(R)度★★★★★/ロマンチック度★★★☆☆/コメディ度★★☆☆☆/ドンパチ度★☆☆☆☆/シリアス度★★☆☆☆
のどかで平和なマッキーノ王国。でも戦争の魔の手が迫ってくる。敵国シヴァ王の狙いは美しく快活なツクシ姫。危機を脱するべく、幼なじみの四王子のもとへ助けを求めに行くことになった。でも魔法で送られた先は違う世界だった!
F4それぞれのエンドをお楽しみください。
参加者:asuhana様、Gipskräuter様、河杜花様、lemmmon様、凪子様、オダワラアキ様
10月15日〜 21時公開

Battle
ラブ(R)度★☆☆☆☆/ロマンチック度☆☆☆☆☆/コメディ度★★★★★/ドンパチ度★★★★★/シリアス度★☆☆☆☆
家庭教師のバイトが休みになったある日、つくしは類にバイトに誘われる。F3とともに家へ向かうとそこにはコンピューター。開発した体感型オンラインゲームを試してみたいとのこと。5人でゲームの世界に飛び込んだが、元の世界に戻れなくなってしまう。どうなるF4とつくし!
参加者:asuhana様、あお様、ロキ様、miumiu様、桃伽奈様、plumeria様、星香様、空色様、たろさ様、やこ様
10月15日〜 15時公開

Darkness
ラブ(R)度★★★☆☆/ロマンチック度☆☆☆☆☆/コメディ度☆☆☆☆☆/ドンパチ度☆☆☆☆☆/シリアス度★★★★★
30代も半ばを超えたF4。交流の絶えていたつくしがF4のもとに現れる。人妻となっているつくし。彼女がF4に求めるものは?そして、F4はどう応えるのか?打算と欲望がぶつかり合い、暗い衝動が皆を支配する。暗闇が口を開け、皆を飲み込んでゆく。混乱が幕を開ける。
※こちらはハッピーエンドではない可能性がありますので、十分覚悟の上お楽しみいただければ幸いです。原作つくしの明るさや、純真さが好きな方にはオススメしません。読み終わった後の誹謗中傷的なコメントも頑張って書いた二次作家様たちが泣いてしまうので、心の中だけでお願いします。
参加者:asuhana様、lemmmon様、ロキ様、桃伽奈様、凪子様、オダワラアキ様、plumeria様、星香様、やこ様
10月16日〜 0時公開


【リレー参加サイト一覧】
(CP別、サイトマスターアルファベット順)
※リレーのエンドとは異なる可能性があります。

★司×つくし
Happyending様 With a Happy Ending

koma様 とりあえず…まあ。

きぃ様 Tsukasa&Tsukushi's DiaryTresor~*トレゾア*

lemmmon様 甘さとスッぱさと

やこ様 Beautifuldays 

☆類×つくし
桃伽奈様 紅茶カップ

凪子様 ビー玉の瞳

オダワラアキ様 dólcevitaオダワラアキの二次小説置き場

りおりお様 類♡だ〜い好き 

聖様 夢見月~Primavera~

星香様 駄文置き場のブログ

空色様(パス制となります) 空色の時間

たろさ様 lale

★総×つく
Gipskräuter様 gypsophila room

河杜花様 柳緑花紅

miumiu様 おとなのおとぎばなし

plumeria様 Pas de Quatre

四葉様 ツクヅクシ

☆あき×つく
あお様 あおいろ

★ALL
asuhana様 明日咲く花

ロキ様 乙女椿

司つく・さくらさくら17

季節外れですみません。一月七日のお話です。

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せり

なずな

おぎょう(ごぎょう)

はこべら

ほとけのざ

すずな

すずしろ

これぞはるのななくさ


つくしが、一つ一つ、歌いながら手に取り、それぞれの葉が痛んでいないか調べている。

まだまだ寒く、春には程遠いが、一月七日の七草粥は、暖かな日差しを感じさせる祝い事だった。

コトコトと煮立つ湯気が、分厚い鍋蓋の隙間から立ち上る。

まだか、まだかと台所の入り口で顔を覗かせる幼子達に、つくしは、母の様な慈愛に満ちた微笑みを向けた。

「もう少しだからね」

「「「あい!」」」

元気よく返事をし、彼らは、どこかへ走り去った。

穏やかな日々が流れ、ついこの間まで、戦をしていた国とは思えない。

このまま、平穏が続いてくれれば。

無理と分かっていても、つくしは、願わずにいられなかった。
















「あきら様!お待ちください!」

「あぁ?俺は、忙しいんだよ!今から英徳寺で七草粥食わねぇーと」

父の片腕として、あきらが切り盛りする美作屋は、この日も多くの米俵や人足が出入りして、大変混雑していた。

だが、つくしの手料理とあれば、何を置いても行かねばならぬ。

あきらは、羽織りに手を通すと、軽やかに外に出ようとした。

だが、この日に限って番頭は、あきらの帯を掴んで離さない。

「何だよ」

「こ、ここでは話が出来ません。つくし様にも無関係な事でもございませんので」

「はぁ?」

普段は冷静沈着な番頭が、珍しく青い顔をしている。

「ったく」

あきらは、引き摺られるままに、渋々裏庭の納屋まで足を運んだ。

「ん?」

あきらの鼻が、血の匂いを嗅ぎ取る。

番頭の目を見ると、動揺で視点が定まっておらず、何度も乾いた唇を舐めていた。

「なんか、面倒臭そうな話みたいだな」

「先ずは、中に」

番頭が戸を引くと、そこには血塗れの男が倒れていた。

打撲のせいで、顔も相当腫れ上がっている。

胸の辺りが上下していることで、辛うじて生きていることが分かった。

「今朝、桟橋の上から捨てられそうになっていたのを、雁助が助けたそうです」

賭場での支払いが滞り、同じ様に暴行を加えられて、簀巻きにされる奴もいる。

だが、この死にかけの男が命拾いしたのは、彼の顔が、あきらの幼馴染に酷似していたからだ。

美作屋に勤める腕っ節の強い奴らは、時として、やばい仕事にも駆り出される。

特に、頭を張る雁助は、一見細身の優男に見えるが、腕っ節も、度胸も、他の追随を許さない。

そんな彼が、別件の仕事帰りに、ズタボロにされた男が、欄干の上から投げ落とされそうになっているのに遭遇した。

雁助は、担ぎ上げられている男を司と思い込み、連れていた手下とともに、ゴロツキ共に殴りかかったらしい。

「あんた、国沢家の亜門さんだね?」

横たわったままの男が、薄っすらと目を開けた。

「あ・・・んたは?」

「名乗るほどの者じゃないさ。強いて言えば・・・つくしちゃんの友達だ」

その言葉が、絶望しかなかった亜門の目に、微かな明かりを灯した。

「聞いてるよ、あんたの事。つくしちゃんの新しいお友達らしいな。司が、かなり怒ってたから、一度会ってみたいと思ってたんだよ」

あきらは、しゃがみ込むと、亜門の顔を上からまじまじと見下ろした。

「ふーん、結構似てるんだな。つくしちゃんが一目で見破ったって言うから、もっと似てないのかと思ってたよ」

「う・・・るせぇ」

「あー、喋んな、喋んな。大体見当はつく。あの子にほだされて、悪い仲間から足抜けしたってところだろ?」

「・・・」

「図星か。ふっ、ま、暫くそこで寝てな。蛇の道は蛇。後のことは、まかせとけ」

亜門を殺し損なった奴らは、最近、近隣諸国から流れ込んだ浪人崩れだった。

食う為なら、何でもやらかすヤバイ連中。

だが、それも、雇い主あってのこと。

亜門と同じ、名の知れた家柄の跡継ぎ数名が、金を積んで雇った事まで番頭は調べ上げていた。

今まで亜門と共に、色々とお痛を繰り返してきた彼らは、亜門の脱退に、恐怖を覚えた。

掌を返したように真っ当になろうとする亜門が、いつ自分達の悪行を世間にバラすか分からない。

しかも、亜門の反対を押し切って、阿片に手を出した矢先のことだ。

疑心暗鬼が膨らみ、とうとう亜門を消そうという暴挙に踏み切った。

「殴った奴らを恨むなよ。あいつらも、それが仕事だ。あんたの元お仲間には手紙を出してやるよ。この美作あきらが、国沢亜門の後ろについてやる。もう二度と手を出すことはない」

この国の裏を牛耳る美作一家。

表向きには、真っ当な商いを行なっているが、人を一人消す事など朝飯前。

手紙を受け取った若様達は、どこから現れるやも知れぬ刺客に怯え、今日から食事も喉を通らないだろう。

「今まであんたがやった悪さも、許されるもんじゃねぇ。その後悔の念、一生背負って生きな」

美作一家にも、最低限の規則がある。

女子供には手を出さない。

素人を食い物にしない。

褒められぬ事も多いが、あきらは、あきらなりに、己の信じる道を生きていた。

「じゃ、俺は、つくしちゃんお手製の七草粥を食ってくる。テメーは、そこで転がって悔しがってな」

ははははは

高笑いと共に、あきらは納屋を出て、ピシリと戸を閉めた。

だが、その目は、笑っていない。





人当たりが良く




世話好きで



年上の女にはからきし弱い






そう評される美作あきらは、もしかしたら、仮の姿なのやもしれぬ。

彼の深い心の闇を覗ける者は、この世にはいない。

ただ一人、柔らかな光をその暗闇にさしてくれる少女がいた。

「それで、十分じゃねーか」

あきらは、再び軽やかな足取りで店を出た。

無論、行き先は、英徳寺。

「七草粥なんて、生まれてこのかた、食ったこともねーけどなぁ」

クスクスと笑うあきらを、店の者達が、微笑みながら見送る。

英徳寺の牧野つくし。

この地に根付き、道端にちょこんと頭を出した雑草は、知らず知らずのうちに、沢山の人間を温かく包み込む存在となっていた。










「俺の分が無えって、どーゆーこった?」

「つ、つ、つかささま、来るか分からなかったし」

「どもってんじゃねーぞ」

「だ、だ、だって、怒ってるから」

「怒るなっつー方が無理だろ!」

空っぽになった鍋を前に、腕を組み、仁王立ちで反り返る司と、その傍で、小さく縮こまるつくし。

「あきらと総二郎、それに類まで食ったって話じゃねーか!」たま

「それは、お昼に、お土産を持って来てくださったから」

思い起こせば、軍議の最中に類の姿が忽然と消え、暫くした後、平然とした顔で、ひょっこり戻っていた。

きっと、前もって最短の時間で大鴉城から英徳寺を行き来する手筈を整えていたのだろう。

何から何まで用意周到な軍師に、司は、ギリギリと歯ぎしりをした。

「分かった!確かに、俺は、昼に間に合わなかった。だが、あきらに、持ち帰りまでさせたってーのは、どーゆーこった?」

「お家に、病人の方が居るって言うから」

「俺が食う分を譲ったってか?」

「ごめんなさい」

つくしは、情けなく眉を八の字にしつつも、あまりの司の怒りように、徐々に腹が立って来ていた。

「謝って済む問題じゃ・・・」

「だったら、どーしろっていうんですか!」

目を潤ませ、つくしが司を見上げ、睨みつける。

「七草粥、七草粥、七草粥!お屋敷に帰って料理人の方に作って貰えばいいじゃないですか!」

「つ、つくし?」

「あたしだって、つかささまに食べて貰おうと、朝から頑張って・・・頑張って・・・えぇーーーーーーーん」

大声で泣きだしたつくしに驚き、司は、あたふた。

声を聞きつけて集まって来た子供達が、わらわら。

「七草粥くらいでねぇ」

「えぇ、七草粥ぐらいでねぇ」

農家の奥様衆も、眉をひそめて、司に咎めるような視線を向けて来る。

「ち、ちげぇ、お、俺は、つくしの作った七草粥を食いたかったんだ!」

泣き続けるつくしに居たたまれなくなった司は、ひょいっとつくしを抱え上げて脱兎の如く逃げた。

そして、裏山の山道を一気に駆け上がると、人の居ない場所でつくしを下ろした。

「わりぃ、言い過ぎた」

「ひっく・・・ひっく・・・」

泣き続けるつくしに、司は、ポリポリと頭を掻く。

まだ、十一。

両親の元で、無邪気に遊んでいる年頃。

小国とは言え、紛れもない姫様が、寺の者達の食事や境内の掃除をするなど、前例のない珍事なのだ。

それを当たり前と思い過ぎた自分に反省する。

「つくし」

「ぐす・・・な、なんですか?」






『お前、俺の屋敷に住むか?』






喉元まで出かかった言葉を、司は、ゴクリと飲みこんだ。

今、軽はずみに屋敷に迎え入れれば、責められるのは、つくし。

前回の戦を機に、司を支持する者も増え、徐々にだが、地盤も固まりつつある。

楓や椿も、自分の血脈、人脈を使い根回しをしてくれているとは言え、つくしが小国の姫である事は変わらないのだ。

婚姻に有益性がない事に対する反発は、想像に難くない。

全ての人に受け入れられるのは無理だとしても、彼女が安心して輿入れ出来る環境を整えねば、全てが水の泡と消える。

司は、精一杯の笑顔を作って、

「今から、『つかささまのあたま(金平糖)』を買いに行くか?」

と言った。

すると、

ピタリ

つくしが泣き止んだ。

そして、そーーっと顔を上げ、

「良いんですか?」

と目を輝かせる。

「泣いた烏がもう笑うか?現金な奴め」

「えへへへへへ」

照れ笑いをするつくしが、なんとも愛らしくて、司の胸が、ドクンと鳴った。

瞼を擦ったせいか、全体的に腫れぼったい。

それが逆に、幼さの中にそこはかとない色気を漂わせ、最近益々磨きがかかる美しさに、花を添えていた。

司は、つくしを抱き上げ、より近くでつくしの顔を見つめた。

「な、何か付いていますか?」

「米粒が唇に付いている」

「えぇ!」

つくしが、両手で口元を隠した。

笑われる。

そう思うと、恥ずかしくて、恥ずかしくて、つくしは、ギュッと目を閉じて、固まった。

しかし、いつまでたっても、司の笑い声は聞こえてこない。

その代わりに、

ちゅっ

つくしの掌に、なにか温かいものが触れた。

それは、フニフニと柔らかく、つくしの唇の真上あたりに暫くとどまった。

つくしが驚きで目を見張ると、目の前に司の顔が。

その眼差しは、今まで以上に優しく、つくしの胸は、きゅーっと締め付けられた。

「お前、覚悟しとけよ」

「え?」

「俺は、狙った獲物は逃がさねー男だ」

十一と言えども、掌越しの口付けの意味を、知らぬ存ぜぬと言い切るほど幼い訳ではない。

心の何処かで、これからも、ずっと司の側にいたいと願っていた。

それが、どのような立場なのかなど、今のつくしには計り知れぬ。

だが、彼女の周りにいる者達は、「つくしを正室に」と願い、必死に動いていた。

「はい・・・」

真っ赤になりながらも、コクリと頷くつくしの愛らしさに、司の腕にも力がこもる。

皆の願いが叶うまで、まだ、数年を要する。

だが、その間も、二人の心が一度として離れることはなかった。

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なかなか書けなくてすみません。
皆様の応援で、なんとか頑張ってます!
心からの感謝をお話にのせて贈ります。
楽しんでいただけると嬉しいしです。

司つく・さくらさくら16

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司が、つくしの元に戻って三日が経った。
戦さの事後処理の為、元旦の宴席以降、彼は、英徳寺を訪れていない。
それでも、つくしにとっては、会おうと思えばいつでも会える距離が嬉しかった。
草抜きの合間に大門に立ち、司が居るであろう大鴉城をのぞめば、続々と参内する人々の列が見える。
その流れは途切れる事がなく、この戦で、どれ程多くの人間が、道明寺の傘下に入ったかが手に取るように分かった。
だが、それは、また、一つの厄介ごとを招くことにもなる。
つくしの視線の先には、何人もの御付きが周りを囲む牛車がいた。
他とは違う、煌びやかな装飾を施された車には、それに相応しい家柄の姫が乗っているはず。
この戦で、つくし同様、人質兼側室候補として差し出された娘達の数は、両手でも足りないと聞く。
裕福な者は、己の実家が建てた屋敷に住まい、それ以外の者は、道明寺家によって用意された大きな屋敷に共同で住むらしい。
良いのか、悪いのか。
つくしのように、寺に預けられ、使用人と同じ物を食し、額に汗して働く者など一人もいない。
「綺麗な方ばかりなんだろうなぁ」
つくしは、憧れにも似た感情で、牛の引く豪奢な車を見つめた後、自分の手に視線を落とした。
泥に汚れ、マメまで出来ている小さな手は、皮が少し厚くなり、熱い鍋の蓋でも掴む事ができる。
それを褒めてくれる人々がいるから、気にしないと、つくしは前を向く。
しかし、彼女の胸の奥を、チクンと尖ったものが刺した。
それが、嫉妬だと気付くには、つくしは、まだ幼い。
「あの中に、お前のような、しみったれた餓鬼は、いねーだろうな」
頭上から降ってくる、悪意とも取れる言葉。
顔を上げると、そこには、司がいた。
だが、つくしは、ニコリとも笑わず、じーっと言葉の主を見上げる。
「なんでー。お前の大好きな『つかささま』だぞ?」
ニタリと笑う表情も、見慣れたもののはずなのに、つくしは、不服そうに口を尖らせた。
「どちら様ですか?」
「はぁーー?面白くねー奴。少しは驚くとか、信じるとかねーのかよ」
何の気配も感じさせず、つくしの背後まで来た男は、自分の顔をスルリとなで、意地悪な笑みを浮かべた。
「似てるだろ?」
「誰にですか?」
「道明寺司」
自慢げな顔だが、どこか寂しさが漂う。
「どこが?」
「ど、どこがって、全部だよ!全部!」
男は、顔を歪めてつくしを睨んだ。
その顔が、泣きそうに見える。
「全然」
「全然って!」
「強いて言えば、眉間のシワの寄り具合が似ています」
「はぁ?・・・プッ、は、は、ははははははは」
男は、高らかに笑うと、ポンポンとつくしの背中を叩いた。
「言うじゃねぇか、小娘」
「小娘じゃありません。牧野つくしと言う名前があります」
「だな。俺は、国沢亜門。お前、俺とダチになれよ」
命令口調なのに、お願いされている気分になるのは、亜門の目が、不安げに揺れているから。
「小娘と友達になっても、良いことなんてありませんよ」
「お前は、きっと得をするぞ。なんせ、俺は、国沢家の後継だからな」
国沢家は、代々道明寺家に使える家臣の中でも、名家中の名家。
歴代軍師をつかさどる花沢家に次いで、二番手の位置にいると言える。
つくしの目には似ていなくとも、他のものが見れば、亜門と司は瓜二つ。
巷では、大殿が女中に産ませた隠し子を、国沢家に押し付けたのでは?と言う噂が絶えない。
無論、真実の程は分からない。
他人の空似なら、これ以上悲しい事はないだろう。
亜門は、常に司と言う大きな山の影にすっぽりとはまり、彼自身を見てくれる者は両親以外にいなかった。
「友達は、なるものではなく、気づけばなっているものだと思います。だから、貴方とも、いつかお友達になっているかもしれません」
十一の少女に、真正面から見据えられ、亜門は言葉を失った。
司と同じ顔を持つばかりに、彼にはっきりも物申す勇気のある者は殆ど居ない。
それなのに、この娘は、ズバズバと亜門の核心を突いて、胸に響く言葉を放つ。
「そうか、いつか・・・な。そりゃ、何時頃だ?」
「そんなの分かりません。でも・・・」
つくしは、司を真似てニヤリと笑うと、集めた雑草の山を指差した。
「一緒にあれを、塵捨て場まで持って行ってくれたら、少しは早く友達になれるかもしれません」
「はぁ?ったく・・・どこまで図太いんだ、お前」
一瞬、亜門の瞳にキラリと光る何かが見えた気がした。
でも、次の瞬間には、また、捻くれた笑みを浮かべている。
「その塵捨て場までってのは、何処だ?」
「え?本当に持って行ってくれるんですか?」
「あぁ、お前とダチになりてぇからな」
最初は、興味本位だった。
騙される様な娘なら、罵倒して、傷つけて、泣いた顔を拝んだら、そのままおさらばのはずだった。
それなのに、
『似てるだろ?』
と問えば、
『誰にですか?』
『どこが?』
『全然』
『強いて言えば、眉間のシワの寄り具合が似ています』
と返してくる。
道明寺司とは似ても似つかぬ国沢亜門。
そう明言された事への清々しさは、今までの亜門を変えるのに十分だった。
これまで悩んでいた事が、ほとほと馬鹿らしく、彼の口からは、笑い声しか出てこない。
「国沢さんは、何がそんなに楽しいんですか?」
「あぁ?気にすんな。こっちのこった」
二人して、泥塗れになって雑草を運んだ。
虫に刺され、ポリポリと掻きながら、笑い合う。
そして、最後に井戸で手と顔を洗うと、亜門から棘がなくなり、穏やかな顔つきになっていた。
つくしは、腰に下げた巾着から、『つかささまのあたま(金平糖)』を二粒取り出すと、一粒は自分の口に、もう一粒を、亜門の手に乗せた。
「ご褒美です」
金平糖の甘さで、顔が蕩けたつくしの笑顔が、亜門にとっては一番の「ご褒美」に思えた。
「あんがとよ」
亜門は、それを紙に包むと、大事そうに懐に入れた。
「食べないんですか?」
「あぁ・・・家宝にでもしようかと思ってな」
「蟻に食べられちゃいますよ」
「かもな」
たわいもない会話が、心地よかった。
亜門は、このままつくしを連れ去ってしまおうか・・・とさえ思った。
「つくし!」
突然入道の声が響き、気づけば、つくしは、彼の肩の上に持ち上げられていた。
「入道さま?」
首を傾げ、つくしは、入道と亜門を交互に見た。
入道からは、警戒心がピリピリと発せられている。
「国沢様、この様な所に、何の御用でしょうか?」
言葉は丁寧だが、入道には、今すぐ斬って捨てる程の殺気がみなぎっていた。
「そんなに怖い顔しなくても、何もしねーよ。ただ、若様の大切にしてるもんが、どんなもんか見に来ただけだ」
司のフリをして、亜門が行ってきた悪戯は数知れない。
国沢家が、その醜聞を恐れ、裏で手を回していたのも事実。
亜門だけでなく、権力を持つ者が、それを無闇に振り回すことは珍しくはない。
だが、その触手をつくしにまで伸ばそうと言うのなら話は別だ。
たとえこの身を罰せられようと、入道は、禍の火種になりうる者を消すだけの覚悟はあった。
入道の強張った顔に、何かを感じたつくしは、目を見開きながら、亜門に向かって叫んだ。
「走って!」
「は?」
「逃げて!」
「なんでだよ!」
「友達の言うことは聞いて!」
つくしの渾身の叫びに、亜門の体がビクリと震えた。
「友達」
確かに、そう呼ばれた。
その刹那、亜門の体が跳ね、駆け出していた。
大門をくぐり、一気に階段を駆け下りていく。
あっという間に小さくなってしまった亜門の背中を、入道は大きな溜息を吐きながら見送った。
「つくし、どう言うつもりだ?」
「あの人は、悪い人じゃないです」
「お前は、直ぐそうやって人を信じる。何かあってからでは遅いのだぞ」
「あの人は、友達です。そして、入道様は、家族です。争って欲しくないです」
「ふぅ」
入道は、亜門を信じきれない。
それを責めらぬほど、今までの亜門の行いは、目を背けたくなるものばかりだった。
だが、司を始め、つくしとの交わりによって変わった人間は後を絶たない。
この先、国沢亜門が、どうなるのか。
『警戒を怠らず、見定めねばなるまい』
入道は、己を家族と呼んでくれるつくしを、命を賭して守ると改めて心に誓った。
「つかささまー」
「・・・」
「つかささまー」
司は、つくしが何度呼ぼうと、仏頂面でそっぽを向く。
「そんなに、怒る事ではございません」
亜門との一部始終を聞いた後、司は、腹わたの煮えくる思いに言葉が出ない。
亜門の噂は、度々耳にしていた。
だが、戦さに明け暮れていた司には、それは取るに足らない小事。
これまでは、捨て置いていたが、今後はそうもいくまい。
「本当に、似て無かったんだろうな?」
「はい!それは、全然!」
双子かと見紛う程似ていると言われる亜門を、つくしが一目で看破した事に、司は満足はしていた。
だが、フラフラとそんな男と友達になったことは許さない。
ますます眉間に皺がより、険悪な顔になる司に、つくしは、スススーッとにじり寄り、下から顔を覗き込んだ。
「やっぱり、似てます」
「はぁ?何処がだよ!」
「ここです」
眉間を触れられ、司の動きが止まる。
「ここの皺の形が、そっくりです」
司を真似して、渋い顔を作るつくしの眉間にも、可愛らしい皺が縦に二本入った。
「お前は、そんな顔すんな!」
「つかささまと、お揃いです」
「うっせー、おめーは、笑ってりゃ良いんだよ!」
そう言いつつも、鏡を引き寄せ、自分の顔を確認した。
戦場で、常に緊張と不安に苛まれていたせいか、眉間の皺は、思いの外深い。
「はぁ」
突いて出る溜息は、虚しさと諦めゆえ。
肩を落とす司に、つくしは、泣きそうな顔になる。
「つかささまー」
もぞもぞと、司の胡座の上に入り込み、つくしが、彼の眉間を撫でた。
温かな感触が、優しく、優しく、司を癒す。
ふわりと体の力が抜け、自然と司の顔に笑顔が戻った。
「しゃーねーなぁー」
「何がですか?」
「何もかもだ」
司は、つくしを抱きしめると、小さな頭に顎を乗せ、そーっと目を閉じた。
とくんとくんとくん
つくしの心音が、生きている実感を湧かせてくれる。
もう、手放せない。
ならば、彼女の人の良さと、人を惹きつけて止まぬ魅力をも全て飲み込み、丸ごと愛するしかないだろう。
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いつも、コメントを下さる皆様ありがとうございます。
感謝を込め、今回は、少し長く書いてみました♡
喜んで貰えると嬉しいな。

司つく・さくらさくら15

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「椿の時も可愛かったが、つくしも、負けず劣らず愛らしいことよ」

「実の娘の時より、ずっと楽しそうですわね」

「さようか?その様に見えるのならば、そうなのであろう。ほほほほ」

「まぁ、母上ったら酷い。ふふふふふ」

楽しげに母娘の会話を楽しむ楓と椿を前に、つくしは、モジモジと居心地悪そうに袂を弄った。

譲り受けた椿の晴れ着は、多少古いとは言え、贅の限りを尽くした一品。

細やかな手作業で刺繍された鶴は、今にも飛び立ちそうな程躍動感があり、人の目を引く。

それ以上に、薄く化粧を施されたつくしの顔は、溜息をつくほど美しくしかった。

「なんだか、落ち着きません」

汚すのも憚られる美麗な着物に、つくしは、小さな溜息を漏らす。

折角司と再会出来たにもかかわらず、その直後、一緒に英徳寺に来ていた楓と椿に捕まり、別室へと連れ込まれた。

そこからは、着せ替え人形の様に、次々と見たこともない贅沢な着物を取っ替え引っ替え。

最後に、この鶴の衣装に落ち着いた。

「いつまで掛かってんだ!」

縁側で胡座をかく司が怒鳴る。

閉められた障子のせいで、三人の様子は会話と気配でしか分からない。

「ったく、皆、待ってんだぞ」

今日は、元旦の祝いとして、宴席が設けられている。

寺子屋の子供達も、今か遅しと、首を長くしていた。

何せ、道明寺家から届けられた、豪華な料理に、西門家から届いた数々の菓子が目の前に並べられている。

しかも、美作家が、飲み切れないほどの酒まで用意してあると聞き、父母達も喉を乾かせ待っていた。

「せっかちね!女の子は、身嗜みに時間がかかるんです!」

椿が、障子を少し開くと、司は、そこに指を掛け一気に横に滑らせた。

バン!

大きな音と共に、目の前に、花の化身かと見紛う少女が現れる。

ほんのりと頬を染め、司を見上げる姿は、花開いた牡丹のように艶やか。

「・・・」

驚きに声が出ない司を、つくしは、不安そうに見上げる。

「・・・似合いませんか?」

「いや・・・その・・・」

「・・・やっぱり似合いませんよね」

髪に添えられた花飾りをつくしが掴み、

「やっぱり、元の着物に」

と目元に涙を溜め、唇を噛んだ。

「待て!」

司は、慌ててつくしの花飾りを抜き取ろうとする手を掴んだ。

「そのままで!いや、そのままがいい!」

司の顔が、触れんばかりの勢いでつくしに迫る。

「で、でも」

「似合っている。物凄く。だから、脱ぐな」

彼の目が、噓偽りない事を必死につくしに伝えてきた。

つくしは、司から逃れるようにそっと顔を横に向け、コクリと頷く。

「わ、分かりましたから」

「おぉ。なら、行くぞ」

グイッと手を引っ張られ、つくしは立ち上がると、くらりと身が揺れた。

それを待っていたかのように、司は、彼女の腰に手を回し、力強く支える。

「腹減って死にそうだ」

「お待たせして、ごめんなさい」

「お前のせーじゃねーよ」

つくしの耳元に優しく囁く司の背中を、椿と楓は微笑みながら見送った。

「まったく、もう、自分のもの扱い?」

「あれは、前からです。それにしても、嫁入り前の娘に、近づき過ぎです」

「司も、周りを牽制しないといけないから大変なんですよ、母上」

クスクス笑う椿に、楓の目線が優しく向けられる。

元は、政略結婚で嫁がされた娘を、長らく心配していたが、どうやら先方は、心から歓待し、大切にしてくれているようだ。

「つくしにも、そなたのように幸せになって貰いたいものよ」

「つくしちゃんがどうなるかは分からないけど、司が幸せ者になるのは目に浮かびますわ」

微笑み返す娘に、楓は、母として、なんとも言えぬ幸福と安堵を感じた。










ワイワイガヤガヤ

主役が登場し、やっと始まった宴会は、無礼講という事もあり、あちらこちらで酒が酌み交わされ、大人達は、良い感じに出来上がっていた。

子供達も、ここぞとばかりに菓子に群がり、食べ切れない分は紙に包んで懐に突っ込んでいる。

つくしは、司の横に据えられ、甲斐甲斐しく手渡される料理に舌鼓を打っていた。

「これもうめぇぞ。あぁ、こっちのは、珍しい」

司は、次々とつくしに料理を取ってやるが、自分は酒と少量のつまみだけ。

「つかささまは、食べないのですか?」

「いいんだよ。おめーが美味そうに食ってるのを見るだけで腹一杯だ」

司は、つくしの頬についた米粒を取ると、ぽいっと口に放り込んだ。

それをつくしは、特に驚きもせず、次の皿に手を伸ばす。

だが、間近で見ていた総二郎とあきらは、驚きの表情で司を凝視していた。

女に触れるなど、気持ち悪くてしかたないと、公然と言い放っていた男。

有言実行とばかりに、一度として女に優しく接した事などない。

その彼が、今、女の口元に付いていた米粒を食べた。

「あきら」

「なんだ、総二郎」

「これ、夢じゃねーよな?」

「夢であってくれたら、どれだけ嬉しいことか」

あきらの視線が、司の横で黙々と食べるつくしに移る。

素直で、明るくて、たまらない笑顔を浮かべるくせに、自分の美しさに最も気付いていない少女。

もっと早く出会っていたら、屋敷に連れ帰り、外に出さなかっただろう。

それは、総二郎とて同じ事。

何度、時を遡らせたいと願ったことか。

二人が初めて英徳寺に、つくしを見にやってきた時、彼女は空から降ってきた。

木登りをして降りられなくなった猫を助ける為に、自分が登り、足を踏み外したのだ。

あきらと総二郎に抱きとめられた時、彼女は、猫を胸に抱き、丸まっていた。

己の怪我よりも、猫を守ろうとしたのだと分かると、酷く心を打たれた。

手足にささくれ立った木の皮が痛々しく、飛んできた入道に、つくしを渡すのさえ惜しまれた。

女に慣れ切った二人が、初めてその扱いに困った少女。

そして、多分、どんなに願おうとも手に入らないことは、司に向ける笑顔で分かる。

なれば、せめて、その笑顔が曇らぬように。

その為なら、何でもやってやろうと心に決めた二人だった。

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司つく・さくらさくら14

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司が戦さに出て、二回目の年越しを迎え、つくしは、十一歳になった。

この日は、元旦。

老いも若きも、何処か浮かれる。

そんな幸せに満ちた日だった。

キュッ、キュッ、キュッ。

薄く積もった雪を踏みしめ、一人の男が英徳寺への長階段を登る。

その頬は、ほんのり赤く上気し、息は心なしか苦しそうだ。

しっとりと滲んだ汗で、薄茶色の前髪が額に張り付く。

それを鬱陶しげに掻き上げ、彼は、英徳寺の大門を見上げた。

太陽の光に輝く瞳は、キラキラと眩く、悩ましげに眉を寄せる端正な横顔は、異国人の様にも見える。

彼の名は、花沢類。

幼き頃、この英徳寺の寺子屋で、司と共に勉学に励んだ幼馴染。

その頃より、神童と呼ばれ、次代の軍師と目される人物である。

再三、司から出仕するよう要請が来るも、

『眠い』

の一言で断り続けた強者でもあった。

そんな彼が、フラリと英徳寺に現れた。

「ふぅ、ここか」

やっと大門を見上げる所まで来て、一度歩みを止めて、己の来た道を振り返った。

純白の世界に、今、付けてきたばかりの足跡が一本、真っ直ぐ自分の足元に続いている。

胸に広がる爽快感と達成感。

だが、彼は、一つの目的を持ってここに来た。

『司の変化は、本物か?それとも、敵を油断させる策略か?』

幼馴染であるが故に、司の豹変ぶりに違和感を覚える。

気に入らぬ者は薙ぎ倒し、全てを掌握するまでは攻撃の手を緩めなかった暴君。

それが、一年以上の時を掛け、出来るだけ被害を出さぬように進軍している。

司の温情溢れる差配に、身の振り方を迷っていた小国も、次々と道明寺の傘下へと馳せ参じ、近隣諸国の勢力図が刻々と塗り替えられていた。

類は、司が語られる時に、必ず名の上がる少女が気になっていた。

牧野つくし。

この冬で、十一歳になったばかりの幼き娘に、いったいどれ程の力があると言うのか?

類は、野に放った間者を英徳寺の使用人として潜り込ませた。

そこから聞こえて来る話は、なんとも痛快で面白い。

つくしを通して司に取り入ろうとする家臣や商人達が、見目麗しい反物や珍しい山海の珍味を贈ってきた際のこと。

丁寧なお断りの書状と共に、全て突き返し、

『もし出来ましたら、英徳寺にお米を寄進して頂ければ』

と一筆添えたと言う。

無論、皆、我れ先にと米を寺に送りつけた。

たが、話はそれで終わらない。

その年の夏、大雨が降り土手が決壊した。

家を流されたのは、低地にしか住むことの出来ない貧しき者達。

英徳寺は、つくしの集めた米を全て彼らにばら撒いた。

結局、誰が幾ら寄進したかなど有耶無耶となり、腹黒い者達は、皆、大損した事になる。

それでも不思議と騒ぎは起こらず、今もなお、英徳寺への米の寄進は増えるばかりと聞く。

そこには、類と同じく、司の幼馴染にして、この土地の商人達を掌握する茶人の西門総二郎と、裏の世界を束ねる札差の次期元締め美作あきらが噛んでいた。

先んじてつくしを見に来た二人が、彼女に惚れ込み、自ら進んで米の寄進を先導していると知ると、類は、どうしてもつくし本人に会いたくなった。

曲者の二人を、どのように落としたのか?

ただの子供てない事だけは確かだった。









類が、一歩、大門を潜ると、中から楽しげな声が聞こえて来た。

「入道様、右、右!」

「こうか?」

「行き過ぎです!もう少し、左!」

巨大な男の肩に、一人の少女が乗っている。

右へ左へと動く大男の顔は、焦りで赤くなり、指示を出す方は、涼しげな顔で、木の枝先に引っかかった羽子板の羽に手を伸ばしていた。

周りを囲む子供達は、大きな口を開けて、今か今かと落ちて来る羽を待っている。

「つくしさま〜、がんばれ〜」

年端もいかぬ童が、ぴょんぴょんと飛び、手を叩く。

「あぁ、あれが」

類は、つくしと呼ばれた少女をまじまじと見た。

正月には相応しいと言い難い着古した着物は、袖と裾に布を継いであり、痩せた体もあいまって、みすぼらしく見えた。

だが、その大きくて黒い瞳に濁りは無く、目元に女らしい優しさも漂う。

腰まで伸びた黒髪を一つに束ねた姿も、溌剌とした美しさがあった。

その姿に眼を奪われ、類は、総二郎とあきらが落ちた訳を知った。

『なるほど、確かに美しい。そして、稀に見るお転婆だ』

構わずにはいられない魅力。

今まで、女に然程興味のなかった類でさえ、彼女の瞳に映りたくなった。

「落ちるよー!拾ってねー」

つくしがチョンと突くと、クルクルと舞いながら羽が落ちていく。

と同時に、つくしの体がグラリと揺らぎ、入道の肩から滑り落ちた。

悲鳴を上げる間もない。

類は、咄嗟に駆け出そうとした。

だが、その横を一陣の風が過ぎて行く。

黒い塊は、つくしの落ちて来る位置に立つと大きく両腕を広げ、

ドサッ

彼女を受け止め、そのまま地面に背中を打ち付けた。

暫しの静寂が続く。

つくしは、自分を抱きとめた人物の頬に触れた。

「つ・・・かささま」

「ったく、いつまで経っても落ち着かねー奴だな」

きつい言葉とは裏腹に、これ以上ないほど優しく抱きしめられ、つくしの涙腺が決壊する。

「ひっく・・・ひっく・・・つかささまだ・・・つかささまだ・・・」

広くて大きな胸板に顔を埋め、つくしは、鼻をすする。

「なん・・で・・・?」

「一年以上借り出してんだ。二度目の正月ぐれー、家族と過ごさせてやらねーとな」

兵士達の多くは、まだ若く、妻や幼子を置いて戦さに出ている。

国を恋しいと思う事を、誰が責められるだろう。

そして、司も又、恋しいと思う者の元へと帰って来た。

「ただいま、つくし」

「お、お、お、おかえ、おかえり、ズズズーーー」

涙で顔をグチャグチャにし、まともに話す事もままならなくなったつくしの頭を何度も何度も撫でてやる。

内心、司は、つくしの成長に驚いていた。

背丈も伸び、見た目も随分と大人びた。

それだけでなく、抱きしめた肢体は、女性らしい柔らかさに富み、芳しい香りが漂う。

いつまでも、地面に寝転んだままの二人。

上から覗き込んでいる子供達も無視したままで。

「まったく、見てられないな」

類は、苦笑しつつも、司の変化が本物と見た。

「面倒臭いが・・・しかたないか」

類は、そのまま、何も言わず、英徳寺の長階段を降りていく。

屋敷に帰り、出仕の準備をしなくてはならなかった。

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↑やる気スイッチ(笑)

司つく・さくらさくら13

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時を同じくし、英徳寺の長い長い階段を、比丘尼と入道が連れ立って登って来ていた。

入道の背中には、沢山の物資が背負われており、その後を、木材を担いだ人足達がぞろぞろと付き従っている。

「まったく、あのつくしには、驚かされてばかりですな」

司の出兵を知ったつくしは、手に紙と筆を持ち、英徳寺の周辺をくまなく探索するようになった。

そして、ある日、比丘尼と入道に、こう言った。

「ここの防御は甘すぎます。確かに、背後に滝と緑豊かな山がある事は、地の利があります。しかし、塀の高さが低すぎます。これなら、矢も易々と超えるでしょう」

手には、英徳寺の詳細な地図。

敵の侵入経路となりそうな場所を、予め防いでおくと言うのだ。

「あの子は、山神の御子でしょうか?」

「いいえ、つくしの父上は、知略に長けた人物と聞いております。幼き頃より、絵草紙の代わりに、兵法書を嗜んだとか」

「あっはっは、なんと、末恐ろしい子供よ」

入道は、態とらしく大口を開けて笑った。

それを、比丘尼が目でたしなめる。

「入道殿、この事、他に知られてはなりませぬぞ」

「何故ですか?痛快ではありませんか!九つの子供が大人も思わぬ機略を用い、我らを守ると胸を叩くのですぞ」

「そこです。つくしの頭の中には、父上様より授けられた牧野家伝来の兵法が詰まっておるのです。この世に、それを欲する人間がどれ程いるか。考えただけでも、空恐ろしい」

比丘尼の懸念も理解できる。

つくしを手にする者は、その頭に刻み込まれた攻防術をも手に入れられるのだ。

しかも、あの純真無垢で人を疑う事を知らぬ娘は、何故か人を惹きつけて止まない。

「広く知られれば、つくしを求め、どれほどの人間が群がるか」

「申し訳ござらぬ。某が、浅はかでした」

入道は、急に渋い顔になり、辺りをキョロキョロ見回した。

今の会話を、誰かに聞かれたと言う事は無さそうだ。

だが、いつ迄隠し通せるものなのか?

入道は、大きな体に似合わぬか細い溜息をついて、情けなく背中を丸めた。










「つかささま、歩けます!」

「うっせー、黙って背負われとけ!」

英徳寺へと続く道を、つくしは、司に背負われ進んでいた。

日中の暑さをそのままに、肌を焼くような風が吹いている。

司の額には、玉のように光る汗が吹き出し、ポタリポタリと顎の先から滴り落ちていた。

つくしは、懐から手巾を取り出し、甲斐甲斐しく拭き取ってやる。

司は、つくしの手が届きやすいように首を傾げてやった。

「わざわざ背負う必要が分かりません!」

「いーんだよ、俺がやりてーんだよ」

まだまだ子供だと思っていたが、この国に来てから満足のいく食事を得て、つくしの体は徐々に大きくなりつつある。

女性らしい体つきとは言い難いが、すっと伸びた手足は、着古した着物からニョキッと突き出していた。

「そろそろ新しい着物を新調しねーとな」

「いりません。今あるのを仕立て直せば、まだまだ着られます」

「そんなボロ、捨てちまえ」

司の何気ない一言に、つくしが、目の前のクルクル頭を思い切り引っ張った。

「いてー!」

「母上様が私につくってくれた大切な着物をボロとか言うからです!」

司の首元に、生暖かい雫が落ちた。

それがつくしの涙だと、直ぐに知れた。

「わ、わりぃ。もう、言わねー」

「・・・」

「なぁ、機嫌直せよ。このまんまじゃ、俺、戦に行けねーだろ」

「・・・ぐすっ・・・」

つくしは、鼻をすすりながら、司の太い首筋に抱きついた。

そして、頬を、頸(うなじ)に当て、鼻のつまった声音で、

「ゆるじます(許します)」

と大人のような口振りで言う。

その愛らしさに、司は、ふわりと笑った。

「おぉ、許してくれてありがとな」

司は、両腕で、軽くつくしの体をポンと浮かし、トンと背中に乗ってくる重みを感じた。

羽のように軽い童。

しかし、それを背負っていく人生の重みに、やっと気づく。











守ってやる。

誰が何と言おうとお前のことを。








そんな司の思いが伝わったのか、つくしは、首に回す腕の力を強め、グリグリと司の頭に顔を埋めた。

「つかささま」

「なんだ?」

「お早いお帰りをお待ちしております」

父、春男の出陣の際、母と二人で、見送った。

その時覚えた言葉をつくしは司に送る。

「あぁ、直ぐ帰ってくる。直ぐにな」

だが、司の帰国は、一年以上後のこと。

それまでの「制圧」に重きを置いた戦いではなく、「対話と交渉」を軸に、必要最小限の戦さに留めた司の変化は、噂となってつくしの耳にも届いた。

鬼神道明寺。

その男を変えた娘、英徳寺のつくし。

彼女の名も又、望む望まざるに関係なく、世間に喧伝されていくこととなった。

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司つく・さくらさくら12

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「俺は、二日後に出兵する。帰るのは、半年後か、もっと先だ。それまで・・・母上とここで大人しく待っていてくれるか?」

膝の上に乗せられたまま、司に顔を覗き込まれ、つくしは、少し照れながらも、不思議そうにコテッと首を右に傾げた。

「何故、此処なのですか?」

「英徳寺よりは、安全だろ?」

当然だと言う風に司は、片眉を上げる。

だが、つくしは、不服そうに口をへの字にした。

「そうでしょうか?もし、敵が攻めて来た場合、一番に攻撃に合うのはここではありませんか」

つくしの真理を突く言葉に、司は、目を見開く。

だが、驚きはこれでは終わらなかった。

「ほら、見てください」

つくしが、天守閣を指差した。

「あそこを落とした者が勝ちです。戦いに不慣れな女達が住まう場所は、最も脆く、最も攻め易い。先ずは、ここを陥落させ、天守閣を攻撃するのが常套手段に思われます」

朗々と持論を展開するつくしの後ろに、司は、彼女の父、牧野春男を見た。

希代の策士にして、難攻不落の山城を守り続けた男。

「しかし、ここならば、沢山の兵もいるのですぞ」

何とかして、つくしを側に置こうとする楓は、首を横に振り、必死に反対の意思を示す。

それでもつくしは、揺れる事なく、楓を見つめ返す。

「楓様、もし、籠城戦となれば、戦えぬ小娘が一人居るだけで食い扶持が無駄に減ります。故に、私は、英徳寺にて、皆を守りたいと思います」

「皆とは、誰じゃ?」

「寺子屋に来る子供達とその家族です。私は、皆と約束したのです」

キッパリと言い切るつくしに、楓は、気圧され、それ以上何も言えない。

つくしは、悲しげな楓に申し訳なさそうにペコンと頭を下げた。

「大鴉は、戦い、勝つ為の城。英徳寺は、命を守る為の最後の砦。戦さのやり方が違うのです。この城で、私が役に立てる事は何一つないのです」

幼い童と侮っていた訳ではない。

ただ、この目の前の娘が尋常ならざる存在なのだ。

そう思い知らされる程、つくしには威厳があり、落ち着きがある。

楓の視線は司へと移り、その眼(まなこ)は、苦笑いをする息子を映した。

「ってわけだ。すまぬ、母上。こいつは見た目と違って頑固で融通がきかねぇ。決めたら岩のように動かぬ堅物よ」 

司に頭をクシャクシャと撫でられたつくしは、

「つかささまは、そんなつくしをお嫌いなのですか?」

と、急にしょぼくれた。

そんな彼女を、司は、きゅーっと抱きしめてやる。

「ちげーよ。その律儀で真面目なとこがお前の良いところだ。精々、皆の為に頑張ってやれ!」

「はい!」

司に褒められ、つくしは、頬を赤らめて喜んだ。

司は、懐から短刀を取り出すと、

「ほら、これをやろう」

とつくしに手渡した。

朱色の鞘には、金彩の鳳凰が施されている。

見るからに高価そうな品に、つくしは、慌てて押し返す。

「だ、駄目です!この様に貴重な物を簡単に人に譲ってはなりません!」

「なら、預ける。俺が戻ってくるまで、肌身離さず持ってろ!いいな?」

短刀をグッと胸に押し付けられ、つくしは、司を見上げる。

自分を見下ろす目は、有無を言わせぬ強さを持ち、つくしを射抜いた。

「は・・・ぃ」

つくしの紅葉の様な手が、彼女には太い柄を握る。

見た目よりもずっと重い短刀は、簡単に扱える代物では無さそうだ。

しかし、つくしは、司の目の前で、そーっと鞘を外し、刀身に己の髪の毛を当てた。

ジョリ

ほんの一房、つくしの髪が落ちる。

つくしは、再び鞘に短刀を戻すと、切った髪を懐紙に包んだ。

「つかささまには、これを」

女の命である髪。

それは、共に行けぬつくしが、せめて我が身の分身を司に持っていて欲しいと言う切なる願い。

司は、言葉なく、神聖な面持ちでそれを受け取り、懐の奥に突っ込んだ。

「待ってます。つくしは、良い子で待ってます」

真っ直ぐな心を司に捧げるつくし。

だが、彼女は、己の価値を何処まで理解出来ているのか?

例えるなら、輝く金剛石の如し。

いつしか、その魅力と資質が、数多の男を引き寄せるのではないかと、司は、心配でしかたがなかった。

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なかなか時間が取れず、四苦八苦。
なかなか書けず、七転八倒。
止まっては書き、止まっては書き。
七転び八起きで、やっと書けました。
_| ̄|○


司つく・さくらさくら11

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楓は、司に向き直ると、懐から一枚の和紙を出した。

そこには、美しい文字で、「つかさ」と書かれていた。

「この子の母上は、大変聡明な方のようですね。聞けば、幼き頃より読み書きを教えていらしたとのこと。これほど器量も良く、愛らしい娘なら、あと、数年もすれば、是非妻にと乞う者も現れるであろう」

司は、母の言わんとすることが分からず、片眉を上げた。

「何が仰りたいので?」

「つくしは、犬や猫ではありません」

楓は、司を諭すように言葉を続ける。

「可愛いからと、いつまでも手元に置くは、そなたの勝手。このまま側室にでもするつもりなのですか?」

「そ・・・そのような事、考えた事もありません」

「ならば、今から考えなさい。つくしの身分では、正室は難しいであろう。正室だからとて、幸せとも限りませぬが」

楓の視線が、庭から見える天守閣に向けられた。

この屋敷の中で、唯一大殿の住まう大鴉を見る事が出来るのが、楓の部屋。

夜伽に呼ばれなければ大殿と会うことさえままならぬ側室とは、一線を画す扱いではある。

大殿は、毎日同じ時間に、天守閣に姿を現し、楓の部屋を見下ろす。

そして、楓も又、縁側に座して、天守閣を見上げる。

言葉を交わすことも出来ず、ただ、互いの姿を目にするだけだが、若かりし頃の深き愛情は、未だに胸の中にあった。

これもまた、愛の形ではあるが、血気盛んな司と幼いつくしに理解できるかどうか。

「つくしをその他大勢の側室と同じにしたくなければ、その頭をもっと使いなされ」

楓は、つくしの天真爛漫さを愛していた。

楓が司の生母であると知った途端、幼き頃の司の様子を熱心に聞きたがった。

何も答えてやれない自分に、つい涙が溢れそうになると、つくしは、慌てて楓の背中を撫でてくれた。

「大丈夫です!つかささまの事は、私が教えて差し上げます!」

その後、つくしは、手振り身振りを交え、司との出会いや、英徳寺に身を寄せてからの事を面白おかしく語った。

「つかささまの頭は、とても面白いのです!雲のように見えて、触ると跳ね返る程強く、濡れるとくねくねした髪が真っ直ぐに伸びるのです!」

手触りを感じるかのように、小さな掌を握ったり開いたり。

あの司が、幼児とはいえ、女子に髪を触らせるとは、楓にとっては新たな驚きだった。

「司は、そなたの何じゃ?」

「お天道様です。暖かくて、優しくて、いつも包んで下さいます!」

ハキハキと、しかし頬を染める姿は、ほんのりと乙女の香りがした。

まだ、こども。

さりとて、あと少しすれば、大人への階段を登るところまで来ている。

「道明寺家の跡取りであるそなたが、たった一人の女子(おなご)と添い遂げる・・・それもまた面白いとは思うのですが?」

楓は、意味ありげに笑い、司は、ゴクリと唾を飲む。

「さほど、時間はない。その事だけは、肝に銘じよ」

「はい」

司は、眠るつくしの顔を見下ろしながら、小さく溜息をついた。

このような幼子を、どうこうしようなど、思いもよらなかった。

だが、手放すとか、他に嫁がせるとかは、考えもつかない。

ましてや、側室の住まう、小さい部屋に押し込もうとも思えぬ。

ただ、この笑顔をいつまでも見ていたい。

それだけでは駄目なのだと思い知らされ、気が重くなる。

ふぅ

再び司が溜息をつくと、突然パチリとつくしが目を開けた。

そして、自分の真上にある司の顔をこれ以上ないほど眼を見開き見上げている。

「・・・・つ・・・かささま」

つくしの顔が,歪んだ。

そして、目には、いっぱいの涙。

身を起こし、司に顔を近づけると、掌を彼の頬に添えた。

「いてっ」

頬の傷に触れられ、思わず口から出た。

ビクリ

つくしは、身を震わすと、慌てて司から離れた。

そして、懐に手を入れると、何かを取り出した。

それは、貝殻の器に入った軟膏。

「は、母上が下さった傷薬です。とても、よく効きます」

人差し指に少量取ると、震える指先で司の傷口に薬を乗せた。

だが、生傷はそこだけではなく、つくしは、唇を真一文字に結んだまま、一つ、一つ、優しくて薬を塗っていく。

つくしの真っ青な顔を見下ろしながら、司は、胸が締め付けられる愛しさを感じた。

つくしは、自分を道明寺司ではなく、「つかささま」として、心から労わり、心配してくれる。

司は、つくしを膝の上に抱え上げると、ギュッと抱きしめた。

つくしは、何が起こったか分からず、真っ赤になって手足をジタバタとさせる。

「つかささま、つかささま、つかささま」

ひたすら名前を呼び続けるつくしの頭に、司は、自分の顎を乗せた。

「うるせー、少し黙ってろ」

「で、で、で、でも」

つくしは、もぞもぞ体勢を変えると、そーっと司の腕の隙間から楓を見た。

司の生母である彼女に、はしたない娘と思われたくなかった。

しかし、目が合った楓は、なんとも優しい眼差しをしていた。

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司つく・さくらさくら10

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「暫し、お待ち下さりませ」

年老いた奥女中が、司の前に茶を出し、そのまま静かに退席した。

ここは、大殿の居城「大鴉(おおがらす)」から、廊下一本で繋がれた屋敷。

正室、側室、それぞれに部屋が与えられ、その全てを取り仕切るのが、母、楓である。

ここは、男子禁制。

幼い世子のみ居住が許され、司も、元服を期に、大鴉にほど近い場所に屋敷を与えられた。

今、司が控えているのは、辛うじて、面会の許される接見の間。

しきたり通り紋付袴に着替えた司の髪の毛からは、ポタリポタリと水滴が落ちている。

英徳寺から馬を走らせ一度帰宅し、水を被って正装に着替えた。

たとえ親子であろうとも、正式な手続きを取らねば会うことさえ叶わぬのが、司と楓の関係だ。

ジリジリとした焦りと腹立たしさに、司の目は、鋭く研ぎ澄まされ、眼前の襖をじっと見つめる。

チリンチリン

鈴が二回鳴らされ、

「楓様、おなーりー」

と声が響いた。

音も無く、襖が開く。

楓は、目の前の息子に、一瞬目を見開いた。

完璧に着こなされた着物とは裏腹に、頬や、畳につく手には、無数の生傷。

濡れ鼠の頭は、普段では見られぬ直毛と化していた。

どれほど、焦ってここまで走ってきたのか?

多少の事では息を切らせぬ体力と精神力を持つ司が、肩で息をしている。

「司、久しぶりであるな」

平伏する司には見えないが、楓の目元が、優しく細められている。

つくしと出会った事で、息子に起こった思わぬ変化。

燃えるような激情を持て余し、相手を傷つける事に無頓着だった彼が、誰かの為に無心に動く様は、生母としても嬉しいものだった。

だが、司は、深々と頭を下げたまま、静かな、しかし、滲み出る怒りを隠そうともしない声で、

「つくしを連れて帰ります」

と言った。

「そう尖るでない。そんなに会いたければ、付いて参れ」

楓は、踵を返すと、御台所(正室の部屋)へと司を導いた。

途中通る廊下は、人払いをしてあるのか、誰もいない。

成人男子が、ここに入る事は、大殿に知られれば罪に問われる。

それでも、司は、黙って楓の後を付いて歩いた。

再び、襖が開けられると、そこには、小さな布団が敷かれていた。

その中で、つくしが、幸せそうに眠っている。

「遊び疲れたのであろう。ふふふ、口の端に、餡子など付けて」

側に座った楓は、つくしの頬に付いた餡子を摘まみ取ると、自分の口に入れた。

その様子を、司は、何度も何度も瞬きを繰り返しながら見た。

赤子の頃に引き離され、司には母の記憶は無い。

年に一度のご機嫌伺いは、無表情同士の形ばかりのものだった。

『幼子に対しては、このような優しき表情を見せる人であったのか』

この愛情が、自分に向けられなかった事への一抹の寂しさを感じながら、司は、つくしの傍らにあぐらをかいた。

「戦さが、始まるそうですね?」

「二日後には出立します」

「では、聞きますが、そなたが居ない間に、もしも、この国が襲われれば、つくしを誰が守ってやるのか?考えた事は、ありますか?」

その問いに、司は言葉に窮した。

入道と言う、彼にとっては片腕に等しい戦士を、つくしの護衛に付けたのは、ひとえにつくしの安全を願っての事。

だが、一度この街が戦場になれば、入道の力だけでは、如何ともしがたい状況が生まれるだろう。

楓は、つくしの頭をそっと撫でてやりながら、愛しそうに見つめた。

「この子とは、妙の墓参りで出会いました。腰に下げた巾着から、それはそれは大事そうに一粒の金平糖を取り出し、妾(わらわ)の手に、握らせてくれたのです」









美味しいです。





とっても、甘いです。




幸せな気分になれます。








「この子の言葉通り、とても甘くて、そして、幸せな気持ちになりました。それ故に、妾は、この子に恩返しをせねばなりませぬ。長らく忘れていた人の心を取り戻してくれたのですから」

楓の目は、何か楽しいことを思いついた子供のように輝いている。

「恩返しとは?」

「この子を、ここで預かります。もしもの時も、この屋敷なれば、守りきれるでしょう」

思わぬ母の言葉に、司は、正座に座り直し、深々と頭を下げた。

「ご配慮を頂き、ありがとうございます」

「そなたより、感謝される日がこようとは。これも、つくしのお陰よの」

この日、和かに笑う楓を、司は、初めて『母』として見ることが出来た。


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